2004年、ひょんなことで俳優・加藤剛さんと同席する機会をいただいた。

俳優・加藤剛で真っ先に思い出すのはTBSドラマ「人間の条件」の梶である!!
小生の二十歳前(昭和30年代後半?)、丸いブラウン管の白黒画面に映し出されたあのドラマは、親父の最後の歳に一緒に見たこともあってか(その翌年に親父は死んだ)、また、五味川純平氏の長編小説 「人間の条件」を“極めて忠実に”映像とし、一年がかりで毎週放映されたもので(再放送もされた)、その影響で何度も本を読み返すたびに、テレビの映像が頭に浮かんでくるからかもしれない。さらに、ビデオのなかった時代のもので、スチール写真も一枚も見たことがなく、それだからか、あの残像は極めて貴重なものであり続けた。
(仲代達矢氏の映画版は一度も見ていない。あのテレビ番組のイメージを壊したくない気持ちが働いているからかもしれない)。そしてサインを頂いた。

昨年末、さらにあのドラマへのノスタルジーを増幅させた出来事があった。
2006年、ある個展で出会った画家さんの義弟は加藤氏とおなじ俳優座の中野誠也さんだった!!

小生にとって、中野誠也といえば影山少尉である!!
梶の親友で梶が老虎嶺に赴任する前にしばしの別れを惜しんで以来、しばらくは画面に出てこなかったが、梶が青雲台に転属になったのち、その中隊付きの将校として配属され、梶と対面した影山少尉は、梶と同じほどの比重で頭にこびりついている。

影山は兵隊の通り言葉で云う「色気のある鮮かな敬礼をした。あまりに鮮かなので、それが愚弄した敬礼の仕方だと見え透いていても、文句のつけようがないのである。
は、
こいつは将校になったが、魂はまだ兵隊以下に腐ってはいないのだ、と思った。
人間の条件(下) 五味川純平 (三一書房) 68頁〜69頁.

その画家さんから、中野さんが主役で出演している俳優座の「赤ひげ」のお誘いを受け、終演後、俳優座近くの居酒屋でお話しする機会を得て、「人間の条件」(下)にサインしていただいた。
まったく思っても見なかった縁で、梶上等兵の上巻に影山少尉の下巻が加わり、「人間の条件」上下巻が完成!!
ビデオがなく、今後も絶対に見ることは出来ないであろう40年前の記憶は更に鮮明によみがえってきた!!




         影山少尉

  梶上等兵・・・・・・・・・・・


TBSドラマ 「人間の条件
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    オープニング
    戦争中の報道ニュース映画 落下傘の画面に続くテーマ・ナレーション

この物語は、戦争という極限状態の中で、自己の良心と生命を守るために、日夜、悩み苦しみ続けた男の魂の遍歴の記録である

このあと、キャスト・スタッフの紹介の画面の背景は、ロダンの「接吻」の小さな像が回転する・・・・(梶と美千子が結婚を決めた記念に買ったもの)
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配役はモンタージュをかけるくらいに、こびりついているが、残念ながら、名前を知らない・・・・。
とくにあの凶暴な岡崎を演じた役者さんなどは、絶対にほかの役等出来ないだろう、というほどの好演だった。このあと、山本薩夫監督の「戦争と人間」、「華麗なる一族」、木下恵助監督の「香華」などにも出演した助演者のデヴュー時代のこの作品には、まったく贅沢に使っていた。 知っている方があったら、教えてください。


・美千子(藤由紀子

老虎嶺 「羊の番犬」の時代
梶と話し合える現実主義の先輩・沖島根上 淳) 老虎嶺の役人的所長○○) ちょび髭をたくわえた“ずるがしこい”事務員・古谷○○ 山本薩夫監督 佐分利信主演の「華麗なる一族」にも出演) むちを手にした凶暴な監督・岡崎○○) 憲兵下士官渡会南 道郎)と憲兵将校○○) 食料配給係・松田 梶の部下の中国人・(森本レオ?)と母親(○○ 陳は高圧電流の通った鉄条網で自殺) 中国人捕虜で大学教授の北沢 豹) 憲兵に斬首される 売春婦の姉御・金東福○○のり子?失念したが、妖艶だったことを記憶・・) 朝鮮人の女衒(小松方正)・・・・

入隊・新兵時代
古兵・吉田上等兵○○ 梶に壮絶なリンチを加えるが、後に脱走する新城を追いかけているうちに、湿地帯の沼に落ちて死亡) 将校以上に軍隊を知悉している日野准尉○○ 股ストーブ  山本薩夫監督の「戦争と人間」では端役で出演) 工藤大尉(北原義郎?) 脱走する自由主義的古兵・新城○○) 銃剣術の名人で、梶に目をかけている橋谷軍曹○○ 戦後の新東宝映画、木村功、岡田英次、沼田陽一、宇津井健の主演した「人間魚雷・回天」にも出演) 強度の近視のインテリ弱兵・小原(下元 勉?自殺)・・・・・

入院
自由主義的元旋盤工一等兵・丹下○○) 憎たらしいギスギスした看護婦長 その部下の徳永看護婦(梶にひそかな恋心 看護婦長が邪魔をする) 角倉中尉(伊豆 肇)とその妹(生田悦子?)・・・

青雲台
船田中尉○○) 弘中砲兵伍長○○ 増井 赤星・・・梶をいびる古兵たち・・・
家族が心配な老年初年兵・円地○○) 熱血元大工棟梁新兵・鳴門○○ 梶をいびる古兵を叩きのめして営倉入り。気分が晴れる) 現役新兵・田代 寺田 高杉・・・(○○) 古兵匹田○○)・・・・

シベリア収容所
最後に梶に叩きのめされ、殺される桐原○○ ざまあみろ!) 収容所においても将校風を吹かせて、捕虜とソ連軍とのあいだを巧みに泳ぐ野毛大尉・・・・
・・・などなど、がいつも目に浮かぶ・・・・○○は顔は思い出すが、名前は失念)

そして影山少尉中野誠也

人間の条件(下) 五味川純平 (三一書房) 68頁〜69頁
・・猪は、残念ながら青雲台行きだぞ、諦めろ」

「巡察異常ありません」
 影山は酒々として大隊長に報告した。
「途中、猪を一頭発見して射留めました。鈴木伍長、大隊長殿がお帰りの際に、これを青雲台まで運搬する兵二名、及び、部隊長殿の護衛四名をつけろ」

 牛島少佐は自分の狼狽がとんだ喜劇の一幕を演じてしまったことに気づいて、僅か一呼吸かそこらの間に、激怒と絶望的な恥辱の問を何往復かした。この少尉の行動は確かに不謹慎である。罰したかった。だが、敵の所在をさえも確認しなかった少佐自身の狼狽ぶりは、醜態であった。それだけにまた腹も立つのだ。

「少尉は発砲に関して慎重を欠いておる」
 と、ようやく威厳を繕ってきめつけた。
「今後狩猟に類することは、大隊副官まで届出てから行うように」
「わかりました」

 影山は兵隊の通り言葉で云う「色気のある鮮かな敬礼をした。あまりに鮮かなので、それが愚弄した敬礼の仕方だと見え透いていても、文句のつけようがないのである。
 は、こいつは将校になったが、魂はまだ兵隊以下に腐ってはいないのだ、と思った。

 影山は五分も経たぬうちにこの喜劇を忘れたような顔をしたし、また事実これを問題として意識に残しはしなかったが、大隊長の方はそうは行かなかった。影山から陣地警備の説明を聞きながら、この任官したての青二才のアラを探そうと神経を立てていた。
 アラはみつからなかったから、不愉快さだけが残った。
二日後に、影山少尉は青雲台の中隊に呼び返され、代りに、暫定的な指揮官として、規則に軍服を着せたような本部附の少尉が観天山に配属された。

 兵隊は締められた。もうパイプ削りも出来なければ、谷の小川で洗濯をしながら日光浴を楽しむことも出来なくなった。この少尉、年齢は三十五六だろう、若くもないのに博識なところを示したがって、毎日兵隊に訓話を垂れた。
訓話の材料は生きている歴史が提供してくれたから、野中少尉は不自由しなかった。米軍の沖縄本島上陸作戦がはじまったし、ソ連が日ソ中立条約の不延長を通告したり、危機感は日ましに深まったのだ。
 野中少尉の訓話によると、日ソ中立条約不延長の通告は、「まことに一方的」で、「非紳士的」で、「陰険な野望を内包するが故に」兵隊は「断固として反撃するの決意を固めねはならぬ」ものであった。独ソ戦が日本にとって都合よく発展すれば、適当な時期に「実力をもって北方問題(対ソ問題)を解決する」ということを四年前の「御前会議」で決定して以来、有利な機会を狙い続けた事実や、中立条約の有効期間中に「武士道的」に相手国を裏切って、ドイツと通牒し情報交換を行った事実などは、野中少尉の訓話からは全く削除されていたし、兵隊は誰一人として知ることは出来なかった。
危機は「一方的に」ソ連から来るのである。
兵隊は「実力をもって大東亜の北方境界を護持しなければならぬ!」
 僅かに、懐疑的であることを恥じない兵隊だけが、大義名分は必ずしも侵略のカモフラージュにはならぬことを見破っていたし、危機は侵略者によって作為され、それ以後は彼我の相互作用によって加速度をつけつつ近づいて来るのを、息づまる思いで、しかも為すところもなく待っていたのだ。

18

 五月の緑のそよ風も夜半には生ぬるく不気味なだけである。国境の向うから刺客のように穏密に渡って来る。星の一雫さえもない暗さであった。いまは見えない、直ぐそこに、歴史が定めた境界線が闇の底に眠っている。そのあたりから、なだらかな山の裾が、向う側とこちら側へ、ただ自然のままに分れて傾斜している。その境界線を護るために、人間がいのちがけで寝ずの番をする。怖ろしく無意味で、退屈で、それでいてこれくらい気味の悪い仕事はなかった。そこを一歩超えるか超えないか、なんでもないことだ。

歩哨は、銃を置いて、ぶらぶら歩いて行けばいい。どの一歩かが、その線を、知らぬ間に踏み超えるのだ。向う側で誰かに会う。「やあ、今晩は」「よう、今晩は」何故、そう云えないのか? 喋って、煙草をやったり、貰ったり。・・・・・



その後の影山少尉と梶上等兵・・・・・・・